出会い

190円の出会い

それはまだ春のきざしからほど遠い、冬の日のことでした。いつものようにバスでスーパーマーケットのアルバイト先に向かっていました。バスが停まっていざ降りようとしたら、前の方でバス代を両替えしようとしわくちゃの札を両替機に入れてあたふたしている赤いハーフコートの乗客がいました。ですが、なかなかうまくいきません。

 

私は仕事の開始時間にとても急いでいたので、持っていたバスカードを運転手に見せて、「この娘と二人分」と無意識に運転手に告げました。カードを器械に挿入して運賃を支払いました。そしてそのままバスを降りて一目散に仕事場に向かいました。

 

次の日の朝、昨日のことをすっかり忘れてしまって、定時に家を出ました。やがてバスが来て乗り込みました。吊り革につかまりながら車窓に目をやりました。乗客の熱い息で半分曇っているバスの窓ガラスに、見覚えのある赤いハーフコートの色が映っています。

 

「あっー」、確か昨日のバスの彼女じゃないか・・。少しひきつった顔を彼女の方に傾けると、微笑んだ横顔が見えました。「昨日はどうもありがとうございました」「どういたしまして・・。急いでいる時はお互い様ですよ」。バスはやがて同じ停留場に着きました。すると彼女は、運転手に「二人分、お願いします」と告げて今度は私の分のバス代を支払ってくれました。 

 

そうこうして同じような日々が続いていたある日、バスの中で思いきって彼女を誘うことにしました。次の日曜日に初デートをすることになったのですが、彼女は当日は青いカーデガンを着ていました。青は「ゴー」のサインでしょうか。自然に二人は愛し合う仲になっていました。